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社会ニュース

岐南工業高校・スシロー・高井十蔵 - 迷惑行為事件の全真相と社会への影響

By Isabella Browning

岐南工業高校・スシロー・高井十蔵 - 迷惑行為事件の全真相と社会への影響

スシロー店内 迷惑行為事件のイメージ

2023年1月、一本の動画が日本のSNSを震撼させた。回転寿司チェーン大手「スシロー」の店内で、ある少年が醤油差しの注ぎ口をなめ、湯飲みを口にし、レーン上の寿司に指を触れるという行為を映した映像が瞬く間に拡散。怒りと驚きが入り混じった反応がSNS全体に広がり、この事件は後に「スシローペロペロ事件」として広く知られることになる。その中心にいたのが、岐阜県立岐南工業高校建築科に通っていた高井十蔵という名の少年だった。

事件はどのように始まったのか

事の発端は2023年1月3日、スシロー岐阜正木店で発生した迷惑行為だった。当時17歳の少年が、しょうゆ差しの注ぎ口をなめる、未使用の湯飲みをなめる、回転レーン上の寿司に指で唾液をつけるという行為を行い、その内容がSNS上で拡散した。

動画自体は短いものだった。だが、その短さが逆に爆発的な拡散を生んだ。動画は約30秒間で、最後に少年がカメラに向かって締めくくる形で終わる。最初は知人間での共有を目的としていたとも伝えられているが、一度ネットに出た映像は誰にも止められない。Twitterをはじめとする複数のSNSプラットフォームで急速に拡散し、数時間のうちに全国規模の話題となった。

当初、本人は「この程度のこと」と笑ってスルーしているようだという情報が知人を通じて伝わり、無反省な態度が炎上に一層の油を注ぐ結果となった。世間が怒りを爆発させるのに、時間はほとんどかからなかった。

高井十蔵とはどんな人物だったのか

岐阜県立岐南工業高校のキャンパスイメージ

本人はSNS上で当初「じゅんぺい」という名前で呼ばれていたが、実名は高井十蔵であることが明らかになった。岐南工業建築科2年で、ファミリーマートでアルバイトをしていたことも特定された。SNSに残された情報、中学時代の卒業アルバムの写真、インスタグラムのアカウントなど、複数の情報源からネットユーザーが次々と詳細を掘り起こしていった。

高井十蔵のインスタグラムのプロフィールには「ちょーぐっどじんせい」と書かれており、人生をエンジョイしていた様子がうかがえた。しかしその「ちょーぐっどじんせい」は、自分の行為が引き起こす結果を理解していなかったことで、一瞬にして崩壊した。

今回のスシロー炎上事件の生徒が通っていた岐阜県立岐南工業高校の偏差値は43で、同校出身の有名人にはスポーツ選手が多く、俳優の伊藤英明さんもいた。バレーボール、レスリング、競輪などでプロ選手を輩出している学校だ。それだけの伝統校が、一人の生徒の軽率な行為で一夜にして「スシロー迷惑行為の学校」というレッテルを貼られることになった。

SNS拡散が生んだ「バイラル炎上」の連鎖

この事件の特徴は、拡散のスピードと深度にある。動画が最初に広まったのはTwitter(現X)だったが、そこからYouTube、TikTok、まとめサイトへと飛び火し、数日以内に国内の主要ニュースメディアも報道を始めた。今回のスシロー炎上事件はTwitterで滝沢ガレソ氏が投稿し、拡散されて話題となった。

事件の動画がSNSで広まった後、ネットユーザーたちは迅速に個人情報を特定し、公開した。名前、通っていた学校、さらには自宅の住所までもが明らかになった。この情報拡散により家族も多大な影響を受け、学校や近隣住民からの誹謗中傷や嫌がらせが相次ぎ、通常の生活が困難になるほどの状況に追い込まれた。

スシローの件で話題になっているのは岐南工業高校であり、岐阜工業高校(笠校)とは全くの別校であるにもかかわらず混同するケースも生じた。こうした"風評の誤爆"も、SNS炎上が引き起こす副作用のひとつだ。無関係の学校や地域、個人にまで被害が及ぶ構図は、この事件を通じて改めて浮き彫りになった。

スシローへの経済的打撃 - 株価と損失の現実

スシロー株価下落と損害賠償請求のイメージ

一個人の悪ふざけが、上場企業を揺さぶった。この一件は親会社の株価に影響し、時価総額が一時160億円以上下落した。株価自体は2、3日で回復したものの、客足が大幅に減少し、得られるはずだった利益の減少や会社の社会的信用の低下といった損害を被ったとして、少年側に6700万円の賠償金を求めて訴訟を提起した。

スシロー(FOOD & LIFE COMPANIES)の株価が下落し始めたのは、2023年1月30日の15時から。事件の報道が本格化するにつれ、投資家の不安心理が一気に膨らんだ。短期間での株価回復は見られたものの、飲食業界全体への警戒感を呼び起こしたという点で、この事件の経済的な余震は小さくなかった。

2023年6月、スシローの運営会社「あきんどスシロー」がペロペロ男に対し、約6700万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴したことが明らかになった。さらにスシロー側は、再発防止策としてテーブル席とレーンの間にアクリル板の設置を進めており、今後9300万円程度の損害が生じる見込みとして請求を増額する予定とした。

法的措置と書類送検 - 少年に下された現実

スシローは重大な事案として早急に警察に相談し、刑事・民事の両面から厳正に対処する方針と回答した。当初は軽い気持ちで行われたとも思われる行為が、刑事・民事の両面から問われる深刻な事態に発展した。

動画の撮影者と、SNS上で最初に動画を拡散させた知人とみられる関係者も含め、計数人を月内に書類送検する方針が示された。偽計業務妨害の疑いで捜査が進められた。単なる「ネタ動画」として撮影されたものが、刑事事件に発展するまでのスピードは驚くほど速かった。

少年側(被告)および代理人は、迷惑行為自体は認めつつも、損害額との因果関係を争点とした。客足減少や株価下落をすべて行為と結びつけるには無理がある、競合店の影響や市場環境変化など他因も考慮すべきと主張した。少年が高校を自主退学せざるを得なかったという報道も見られ、社会的・心理的影響も争点のひとつとなった。

少年側は「少年は現在も反省の日々を送っている」「客が減少した原因は他店舗との競合も考えられる」として請求棄却を求め反論していた。それでも法の目は甘くなかった。

調停成立 - 事件に幕が引かれるまで

2023年7月31日、報道によれば大阪地方裁判所において調停が成立した。金額の詳細は非公表だったが、スシロー側が6700万円という当初の請求を取り下げた形になったことで、一部からは「甘すぎる」という批判の声もあがった。

6700万円には届かずとも、店内の備品取替費用などは実際に発生しており、そういった費用の賠償は必ず発生する。賠償請求はあくまでも民事の問題であり、少年は家裁送致もされている。「無罪放免」ではなく、刑事・民事の両面で何らかの責任を負わされたことは間違いない。

岐南工業高校が受けた風評被害の深刻さ

高校そのものへの影響も、見過ごせないものがあった。一人の生徒の行為が、学校全体のイメージを直撃した。学校にも抗議の電話が殺到し、学校側も対応に追われた。教職員が事件と直接関係ない対応に多くの時間と労力を割かなければならなくなった。

岐阜県立岐南工業高校は、地域の工業系人材を長年輩出してきた歴史ある公立校だ。スポーツ分野での実績も豊富で、卒業生には俳優や競技者も名を連ねる。そうした積み上げてきた評判が、一夜の出来事によって大きく傷ついた。在校生や真面目に学ぶ生徒たちが受けた精神的な打撃は、数字には表れない。

「寿司テロ」と呼ばれた一連の社会現象

回転寿司の迷惑行為防止対策アクリル板のイメージ

高井十蔵の事件は孤立した出来事ではなかった。この事件をきっかけに、全国各地の回転寿司チェーンで類似の迷惑行為が次々と報告されるようになった。またしても熊本のスシローで中学生による寿司テロが行われた、という報道も続いた。模倣犯の出現は、一つの事件がいかに他者の行動に影響を与えるかを示す、不都合な現実だった。

スシローの運営会社は再発防止策として、テーブル席とレーンの間にアクリル板の設置を進めた。物理的なバリアで客と食品の接触を防ぐという対策は、業界全体にとっての苦渋の決断だった。これによりコストが増加し、その費用も損害賠償請求の根拠のひとつに加えられた。

「バカッター」という言葉がある。SNSに軽率な投稿をして炎上する人を指す俗語だ。高井十蔵の事件は、まさにそのバカッター現象の典型例として語られることになった。動画を記録し、共有し、ネット上に放った瞬間から、もう引き返す道はなかった。

この事件が社会に突きつけた問い

SNS時代における「軽率な行動」のリスクを、これほど鮮明に示した事件はそれまでなかった。株価が動き、企業が訴訟を起こし、学校全体が風評被害にさらされる。たった30秒の動画が引き起こした波紋は、当事者の予想を遥かに超えるものだった。

ネット上での情報拡散は一度始まると止めることが難しく、個人情報は今でも多くの人々の記憶に残っている。デジタル社会においてはすべての行動が記録され、拡散され、永遠にアーカイブされ得る。これは未成年者に限らず、すべての世代が真剣に向き合うべき現実だ。

まだ10代であるペロペロ男に対する巨額の損害賠償請求には、一部から同情の声も寄せられた。しかし、スシローの対応には賞賛の声もあがり、きっちり損害賠償を請求し厳正に対処していくことが同様の行為への抑止につながるとも指摘された。

高井十蔵という名前と岐南工業高校という学校名は、日本のSNS文化史における一つの教訓として刻まれた。社会が問い続けるのは、罰の重さではなく「なぜこうした行為が起きるのか」という根本的な問いだ。自己顕示欲、承認欲求、そして軽率さ。それを増幅させるのは、スマートフォンとSNSの組み合わせだった。この事件が残した最大の問いかけは、今も答えを求めて宙に漂っている。